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子牛の『出べそ』に注意

根室北部事業センター 第二家畜診療課
獣医師 桑原 あゆみ

 「子牛の臍が腫れているので診てほしい」「臍の辺りから膿が出てきた」
 このような診療依頼をよく受けます。子牛で臍部が腫れている場合、いくつかの病気が考えられます。まずは、臍の基本的な構造についてご説明します。
 胎内で子牛は母牛と臍帯(複数の血管と尿膜管)で繋がっており、母牛側と栄養と不要物の受け渡しを行っています。臍帯は出生すると同時に切れて、その後外部に露出している部位は徐々に乾燥し、腹腔内部の臍帯構造物も成長とともに退縮していくのが一般的です。
 出生直後は、外部に露出している臍帯はまだ皮膚で覆われておらず、非常に感染しやすい状態です。ここで臍帯が汚染され感染が成立してしまうと『臍帯炎』となります。臍帯炎の中には、臍部周囲のみの感染でとどまっている場合もあれば、感染が血管や尿膜管を伝って、肝臓や膀胱まで波及してしまう場合もあります。臍帯炎では、臍部を触ると腫れて熱を持った臍帯を触ることができます。触ると痛がることが多く、臍の先から膿が出ていることもあります。感染が全身まで広がってしまうと最悪の場合、敗血症となって死に至る事もあります。
 一方『臍ヘルニア』は、腹壁の臍の部分に空いた穴(臍輪)から腹腔内の臓器(腸管や四胃等)が脱出し、臍部が腫れているように見える状態をいいます。先天性に起こる場合もありますが、臍帯炎や下痢等の炎症によって臍輪が押し広げられ、そのまま穴が塞がらずに臍ヘルニアとなってしまう場合もあります。たかがヘルニアと思っている方も多いと思いますが、臍輪に腸管が挟まって閉塞してしまったり、何かの拍子にヘルニアが破けて腸管が外に飛び出してしまったりと命に関わる危険性もある病気です。

なんで臍が腫れているのか分かりますか?
この牛は臍帯炎でした。

 

臍帯炎が進行して腫瘍になってしまった牛。
手術適応になりました。

 

 それぞれの治療法ですが、臍帯炎の場合、抗生剤や抗炎症剤による治療が第一選択となります。これにより多くが治癒しますが、中には腹腔内に膿瘍を作っている場合もあり、この場合手術が適応となることもあります。臍ヘルニアの場合、ヘルニア輪が1~2指幅で小さければ、テープやヘルニアネットでの固定による整復が第一選択となります。しかし、ヘルニア輪が3指以上で大きい場合、ヘルニア内容物が中で癒着してしまっている場合等は手術が適応になることもあります。また、臍帯炎と臍ヘルニアを併発している場合は両方に対する治療を実施しなくてはならない為、治療期間は長引く場合が多いです。
 発生機序、治療法等についてご説明してきましたが、臍の疾患は何よりかからないようにすることが大切です。まず分娩環境を清潔にすることで、臍が汚染されるリスクを減らすことができます。また、出生後は速やかに臍の消毒を行います。臍周囲が汚れている場合はぬるま湯でよく洗ってから、消毒液を臍帯周辺に十分にかけるようにします。消毒液は、クロルヘキシジン製剤(外用殺菌消毒剤)や搾乳後に使うディッピング剤が良く、ヨーチンは刺激が強すぎるので避けた方が無難です。クロルヘキシジン製剤は濃度が濃いので、使用する際は10倍に薄めて使用してください。臍帯の消毒は臍が乾くまで毎日行います。また腫れていないか、触って痛がらないか生後1週間程までよく観察します。
 臍の病気は気づかないことも多いですが、全身に影響が出ることもある病気です。たかが臍と思わず、良く気にかけてあげてください。何か不明な点があれば、お気軽に獣医師にご相談ください。


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